Saturday, May 18, 2013

ジョン・バースのナボコフ頌

 ユリイカ1991年10月号の特集「ナボコフあるいは亡命の20世紀」に、ナボコフの70歳の誕生日に寄せられたジョージ・P・エリオット、アーウィン・ショー、ジョン・アップダイク、アルフレッド・ケイジン、ジョン・バースといった作家たちのナボコフ頌の文章が訳出されていたが、ジョン・バースの文章が特によかったので引用して紹介。

四月二三日万歳! (ジョン・バース、中尾秀博訳)
宛先/スイス国モントルー V・ナボコフ
発信人/合衆国バッファロー J・バース
用件/四月二十三日

拝啓 N様、
本日私たちはセルバンテスと聖ジョージとシェイクスピアを失いました。けれどもシェイクスピアに関しては差し引きゼロです。そしてアレンビー伯爵、アンソン提督、ヘーゼル・ブラウン、サンドラ・ディー、J・P・ドンリービ、J・A・ フルード、レイモンド・ハントリー、マーガレット・ケネディ、ナイオ・マーシュ、マックス・プランク、私の好きなマックス・プランク、セルゲイ・プロコフィエフ、ヘンリー・シェレク、ソコルフスクと貴兄の二人のウラジミール、エセス・スミス夫人、シャーリー・テンプル、J・M・W・ターナーと揃えて断然の勝ち越しです[註 四月二十三日を命日、または誕生日とする著名人のリスト。シェイクスピアは命日、誕生日ともに四月二十三日とされる]。まず大丈夫だと思います。オリオン座のN(ヌー)星でちょうど今頃望遠鏡の焦点をサン・ペテルスブルグのモルスカヤ通り四十七番地に合わせた連中は、貴兄の最初の誕生日のロウソクの青白き焔を捕らえることができるかもしれません。東側のカーテンがしまっているか、ロシアが曇っているか、一家が別荘で週末を過ごしているか、その幼な児の誕生日が実は昨日―土曜日生まれという証拠をよそに―だったとかいうことなら話は別ですが。
 その子の前途は実に洋々たるものです。彼の一本目のろうそくが消されるまえに、わたしは彼の文名と長寿を願って祈ります。二八九九年のこの日、地球では彼の生誕千年記念論文集(フェストシェリフト)が企画され、ベテルギウス星の望遠鏡では彼のケーキに並んだ百本のロウソクが観察されますように!
                                                        敬具

[註 ナボコフ七十歳の誕生日(一九六九年四月二十三日)に寄せたこの文章のN星とベテルギウス星の件りは、地球から光が到達する時間をそれぞれ六十九年、九〇〇年と計算して書かれている]
(ユリイカ、1991、10、p.67)
それに対するナボコフのお返事と思われる文章が"Strong Opinions"にあった。
拝啓 B様
誕生日のご挨拶ありがとうございます。同じ日にたくさんのお返しがあったことをお祝い申し上げます。わたしの揺りかごのまわりをなんとたくさんのすてきな人たちが囲んでいることでしょう ! あなたがマックス・プランクを好きだと知って嬉しく思います。わたしも彼が好きですから。しかし、セルバンティスはそうではないです!
                                                        敬具
    V.N.(SO、p.299)